四号建築の壁量計算図表などの検討書や構造図面の省略が廃止され、壁量計算方法なども大幅に変更される2005年4月施行の四号特例縮小/廃止が間近に迫っています。いよいよこれで確定かという情報がまとまってきたのでわかりやすく解説したいと思います。尚、2024年11月現在まだ一部未確定のところもあるようです。
※“4号建築”,”4号特例縮小”,"4号特例廃止"という表記が多いですが、ここでは条文に合わせて漢数字表記をしています。
必要壁量はこうなる
改正後の壁量計算は以下の3つの方法になるとされています。
(1)個々の建築物の荷重の実態に応じてより精緻に検証する方法
(2)簡易に必要な壁量を確認する方法
(3)構造計算により安全性を確認する方法
このうち方法(2)が従来の壁量計算ですが、従来の屋根の重さなどで区分けする単純なものではなくなりました。改正後は日本住宅・木材技術センター(以下”住木センター”)にて公表されている屋根と壁の仕上、太陽光パネルの有無、階高、1階と2階の面積比など細かく条件分けされた早見表から計画建物の必要壁量を読み取る形式になります。
具体的にどうなるか見てみましょう。現在比較的多いと思われる太陽光パネルあり、1階階高3m以下、2階階高2.9m以下、2階の床面積が1階の80~99%という条件を例に早見表を読んでみたのが下図です。ここから屋根金属葺き外壁サイディングの仕上の2階建木造住宅の必要壁量をみると1階40cm/㎡、2階22cm/㎡となります。これは以前のコラムで書きました従来の必要壁量とZEH水準の必要壁量の中間的な数値となります。元々構造計算すると従来の施行令46条が定める必要壁量では2割ほど不足する言われていたので、実状に合わせ結果となる様に定められている様です。 尚、風に対する必要壁量は従来から変化しない様です。
一方で(1)の実状に応じて検証する方法は、住木センターより右図の様な表計算ツールが公表されておりこれに階高、各階の面積や仕上などの建物概要を打ち込んで算出することになります。ここで、先と同じ条件で1階床面積を55㎡、2階床面積を50㎡(2階の床面積が概ね90%)として計算させると必要な壁量は1階39cm/㎡、2階21cm/㎡となりました。早見表より少し小さいですね。これは2階の面積が小さいと2階の必要壁量が多くなり、2階の床面積が大きいと1階の必要壁量が多くなるため、早見表では両社の厳しい方で決められていると考えられます。
大きな変化としては複数の耐力壁を組み合わせたときの倍率の上限が5倍から許容応力度計算を行うときと同じ7倍に拡大されました。つまり2つ割りのダブル筋交い(4倍)+構造用合板耐力壁(2.5倍)を組み合わせたときの倍率が従来は5倍で頭打ちとされていたのが、改正後は4.0+2.5=6.5倍で壁量計算が出来る様になります。
また、品確法の性能表示や許容応力度計算で用いられていた準耐力壁も建築基準法上の壁量計算に算入できるようになるようです。
※準耐力壁は近年許容応力度計算でも算入しないのが一般的になっています。
(3)の構造計算=許容応力度計算をした場合の必要壁量は(1)の実状に応じてと概ね同じになりますが、許容応力度計算の方がより建物の実態に合わせた検討が出来ます。このほか、従来は許容応力度計算する場合でも必要だった壁量計算の提出が不要になるため、構造計算をすれば大臣認定外の耐力壁も試験成績書の添付があれば自由に使えるというメリットが生じます。長さ455mmの耐力壁を多用する狭小間口の建物を設計するときに便利でしょう。
式が変わるN値計算
柱頭柱脚金物の規定は計算方法が改正されました。
※この記事公開の2024年9月第2版から2024年11月第3版にて改訂されています。
旧:N = A1×B1 - L1 (平屋/2階建の2階部分)
N = A1×B1 + A2×B2 -L2 (2階建の1階部分)
新:N = (A1×B1)×H1/2.7-L1 (平屋/2階建の2階部分)
N = (A1×B1)×H1/2.7 + (A2×B2)×H2/2.7 -L2 (2階建の1階部分)
改訂前
新:N = (A1×B1-L1)×H1/2.7 (平屋/2階建の2階部分)
N = (A1×B1)×H1/2.7 + (A2×B2-L2)×H2/2.7 (2階建の1階部分)
ここで
A1:検討する階の壁倍率の差
B1:周辺部材による押さえ効果係数で出隅柱0.8、その他の柱0.5
L1:鉛直荷重の押さえ効果で出隅柱0.4、その他の柱0.6
H1:当該階の横架材の上端の相互間の垂直距離(m) ただし、3.2m以下のときは2.7とする。
A2:直上の2階柱の壁倍率の差
B2:直上の2階柱の押さえ係数で出隅柱0.8、その他の柱0.5
L2:鉛直荷重の押さえ効果で出隅柱1.0、その他の柱1.6
H2:2階の横架材の上端の相互間の垂直距離(m) ただし、3.2m以下のときは2.7とする。
※マニュアルではL1,L2はLと表記されていますが、ここでは比較しやすいように改正前の表記に合わせています。
大きな変化は横架材の上端の相互間の垂直距離(=構造階高)H1/H2の要素が追加された事です。わかりやすく解説すると、木造軸組工法住宅の許容応力度設計(グレー本)に基づく許容応力度計算では階高が大きくなればなるほど柱の引抜力が大きくなるのでそれを反映させる意図でしょう。結果的に階高が2.7mを超える建物は必要な金物が若干上がります。※この式はまだ変更される可能性が示唆されています。恐らくですが、鉛直荷重の押さえ効果L1,L2の位置がちょっと変なのでそこが修正されるのだと思われます。
改訂前と比べL1,L2の場所がH1/2.7,H2/2.7の外側になり、H1, H2の階高の影響が3.2m超からになりました。
4分割法に大きな変化無し
耐力壁の配置のバランスは従来通りの四分割法から変化ありません。したがって、従来通りで良いでしょう。
柱の小径は?
柱の小径も早見表か表計算ツールを用いることになります。
ひとつ不可解なことに以前あった多雪地域の規準がなくなってしまった様で早見表にも表計算ツールにも項目がありません。煩雑さを避け、わかりやすくするためでしょうか?
※性能表示等を取るときであれば、多機能版表計算ツールを使って積雪の影響を検討できます。
先の壁量計算と同じ早見表で必要な柱の小径を見ると、屋根が瓦屋根となったりガルバ鋼板屋根でも外壁をモルタル壁にしたりすると、105角の柱ではダメで120角に上げる必要が出てきます。しかし、早見表はスギ柱を前提としているので表計算ツールの方でヒノキなどの強度の高い木材を使用すればある程度105角に納める事は出来ます。
因みに許容応力度計算を行えば重い屋根としても概ねスギの105角の柱で設計出来ます。
仕様表で構造図を省略可能 本当に省略してしまってよいのか?
最新情報ではA4一枚程度の仕様表を添付すれば当初添付が必須とされていた伏図等の構造図面を省略出来きる様になりました。さらに申請マニュアルでも構造図面の添付に全く触れておらず、国土交通省としても図書の省略を推奨している様です。一番懸念されていた伏図などの構造図面の提出がなくなって胸をなで下ろしている工務店、ハウスメーカー、設計事務所も多いと思います。しかし、本当にそれで良いのでしょうか?
必要壁量は概ね許容応力度計算をしたときと同程度が確保される様になりましたが、梁の強度は十分にあるのかという問題があります。さらに、阪神淡路大震災では屋根や床が壊れて倒壊してしてしまった住宅が多く見られましたが、四号特例縮小後もこちらの検討はしないとなっています。改正後の規定でも建物の安全性を担保するにはまだまだ足りないのが実状です。この上に構造図面の添付を省略してしまうのは、構造設計者からみるとようやく実現した四号特例縮小の意義が大幅に薄れてしまったいうのが正直な感想です。これでは何か問題が起こっても、第三者は設計が適切であったのかも検証できません。
本年の頭にも能登半島地震が発生しています。地震国である日本において住宅の耐震性能を十分に確保する事は災害時の消費者の命を守る事に直結します。また、住宅を建てて10年20年後にリフォームや増築を行うときに構造図面や構造計算書がないと設計も工事も難しくなります。
ものづくりをする者として、確認申請を楽に出す事に目が行き地震時の安全性などの消費者の利益がカヤの外になってしまっていないか、考える必要があると筆者は考えます。
尚、伏図などの構造図面を添付したい場合何が必要かについては恐らく現行法で2階建以下200超~500㎡の2号の特殊建築物と同様の運用になると思われます。これらの建築物は、基準法20条第4号が適用され構造計算書は不要だが4号特例でないので壁量計算等の検討や構造図面の添付義務が生じる建物です。必要な図面は、構造特記仕様書、基礎伏図、基礎断面リスト、各階床/梁伏図、軸組図、実施していれば地盤改良の割付図等、その他必要に応じて構造詳細図等になるでしょう。需要があればこれらの解説も行いたいと思います。
許容応力度計算を実施するハードルは高い?
許容応力度計算や構造図面の作成をするのは非常に難しいと捉えがちです。従来対応してくれる構造事務所を探すのも、プレカット工場との調整をするのもそれなりにハードルの高いものでした。しかし、今では構造計算を請け負っているプレカット工場も現れています。加工を依頼するプレカット工場に依頼すればさほど業務負担は増えません。また、四号特例縮小の発表後に自主的に許容応力度計算を全棟実施するハウスメーカーや工務店は着々と増えており、それをしていない競合他社との差別化を消費者に強くアピールする様になっていくのが予想されます。ですから、時代の変化にあわせ一歩踏み出してはいかがでしょうか?
また、耐震等級3とした木造住宅で倒壊した建物は東日本大震災、熊本地震、能登半島地震を経ても今のところ報告されていません。木造住宅は耐震等級3が当たり前とすべきでしょう。
四号特例縮小/廃止に関しては、今後新しい情報が出ましたら随時更新してゆきます。
ご自宅の耐震性について不安のある方、ご検討中の住宅の耐震性が気になる方
ご相談を承ります
工務店様、ビルダー様などで品質向上のため自主的な許容応力度法による構造計算をかけたい
耐震等級2~3の住宅を計画したいとお考えでしたらお手伝いさせていただきます。
構造設計技術者を育成・内製化したいとお考えであれば、内製化のコンサルも行っていますのでご相談ください。