多くの住宅会社では住宅瑕疵担保履行法に基づく保険の他に地盤に保証をつけているかと思います。しかし、この地盤保証が悩みの種になっている住宅会社さんも多いのでは無いでしょうか?
地盤保証の現実
どこの地盤保証会社も「保証料がかかるが、必要な建物だけ地盤改良するのでトータルではコストダウンになる」と宣伝しています。しかし、地盤保証会社の営業マンは7割方は不要になると説明していたのに、実際は地盤改良不要になる物件は2,3割で7,8割は地盤改良必要と判定されるという話を良く耳にします。最近は地盤改良する場合でも湿式柱状改良が構造計算で算出した必要数の1.5〜2倍の本数を要求されて困っているという相談もありました。明らかに地盤改良が不要な地盤なのに地盤改良が必要と判定される事が少なくありません。住宅会社にとってこれではコスト負担が増える一方です。
私も一度、判定の根拠がおかしいと反論の余地がないくらい論理立てて追求してみたのですが、最後に「それでは保証が出せません」の一言で押し切られてしまいました。ではどういう技術基準で判定しているかも聞いてみたのですが、「公開できません」の一点張りで完全にブラックボックスです。確認申請などで理不尽な質疑が出たら徹底抗戦している私もこれにはお手上げです。
私の推測になりますが、これは地盤保証のシステムそのものが抱える問題ではないかと思います。
地盤保証会社は保証料をもらった上で地盤調査を行い、地盤改良が不要と判定された場合は万が一不同沈下等が発生した場合補修費用を出しますというシステムです。ここで地盤改良不要という判定は不同沈下の可能性というリスクが伴う一方で地盤改良という判定はリスクが少ない上に地盤改良工事という追加の利益が得られます。つまり地盤保証会社にとって
- 地盤改良不要という判定は、保証料のみ入りリスクを伴う
- 地盤改良必要という判定は、リスクがない上に地盤改良の利益が得られる
こうした状況でどれほど地盤改良不要という判定が出されるでしょうか?さらに地盤保証会社は異議を申し立てられても「保証を出さない」という無敵のカードを持っているのです。
地盤保証は本当に必要か?
実は設計者である建築士が技術的根拠のある判断で地盤改良不要と判定した建物は、万が一住宅に不同沈下が発生ても瑕疵担保履行法の保険が降ります。
国土交通省の見解
国土交通省の佐々木基・大臣官房審議官は2009年4月の国会の答弁にて
「瑕疵担保保険は地盤が原因で生じた住宅の不同沈下などにも対応するので住宅会社に地盤保証は不要」
という旨の見解を示しています。(日経ホームビルダー2010.1より)
保険法人の設計施工基準
ある財団法人系の保険法人の設計施工基準の例ですが、地盤改良の要否判断及び地盤改良工法の選定にの根拠となる地盤調査結果の考察として
- 地盤調査会社におる「地盤調査結果報告書」記載の考察
- 地盤保証を行う会社の判定・考察
- 設計者、施工者、その他の地盤調査・改良会社等による考察
以上が認められています。多くの住宅会社は上記2.の選択肢をとっているのですが、3.の設計者の考察でも大丈夫なのです。
もっとも、「経験的に大丈夫」「まわりがやっていないから大丈夫」といったアバウトな考察はNGで調査結果の数値を適切に読み解いた考察が必要です。構造設計/構造計算を生業としている建築士ならさほど難しくはありません。
保険法人にも問い合わせたところ、「設計施工基準を満たした上で不同沈下が発生した場合、基礎の不具合として保険を適用している」との回答でした。
※ご注意:この件は念のため契約している保険法人にご確認をお願いします。
地盤の判定や地盤改良を安全側に見ているならいいじゃないかという意見もるでしょうが、建物が建築基準法ギリギリの耐震性に不安がある四号建築で地盤だけ安全率が過大なのは かなりアンバランスだと思います。また、地盤改良にかかる費用で木造2階建住宅の耐震等級を1→3に上げられるのなら、限られた予算をどこに使うべきかよく考えてみるべきでしょう。
地盤保証は液状化に対しては無防備
東日本大震災で顕著化した地震時の液状化、浦安の裁判には消費者のみならず住宅会社の皆さんも注目していると思います。
地盤保証は液状化についてどう対応しているか調べてみたのですが、現状で液状化の検討と対策をしている地盤保証会社は少ないようです。以前営業に来たある地盤保証会社は「液状化で死者が出た事例は無いので法規制の動きも無い、液状化が起こってしまったら運が悪かったと諦めればいい」という旨の話をしていました。また、液状化はN値10以上の場所でも発生しており、地盤調査で良好と判定された場所でも発生し得ます。
※保証会社が液状化の検討をしているかは後述のスウェーデン式サウンディング試験で地下水位を計測しているかで判別できます。
いざ液状化の被害が発生した場合、保証会社は「液状化は保証対象外です」で済むかもしれませんが、住宅会社にとっては一大事です。浦安の裁判では20年以上前に分譲された物件に対して供給者として当時必要な危険予測と対策を取られていたか?が争われています。液状化に関する建築基準法の規制は今現在も無いのですが法令違反がなくても供給者が必要な注意義務を果たしていたかが争われているのです。また、液状化は中規模地震でも発生し得ますので住宅を供給する者にとってこのリスクは非常に大きいといえます。
とはいえ、FL法の様な本格的な液状化の判定調査を戸建て住宅で実施するのは予算的、労力的に難しいでしょう。次善策になりますが日本建築学会「小規模建築物基礎設計指針」にてスウェーデン式サウンディング試験時に地下水位を観測する事で簡易な液状化判定をする方法が提示されています。あくまで簡易判定なので精度的に万全とはいえませんが、無防備・無配慮よりはずっと良いので私が自分で手がける物件はこの方法で液状化の検討と対策をしています。
100万円の地盤改良が不要になった!?
少し話がずれますがこんな相談を受けたことがありました。
「木造2階建てベタ基礎の住宅で地盤調査の結果、地盤改良に100万円あまりかかるという判定が出たが施主も我々もそんな予算を出すのは苦しい、何とかならないか?」というものでした。
SS試験の報告書を見たところ地表〜5mぐらいの深さまではWsw750N〜1kNの自沈層とNsw10前後の層が混在した粘性土で一見してひどくはないが地盤改良不要とは判定しづらい結果でした。では地盤改良するとなると困った事に5m以深には換算N値3に届かない地盤改良の支持層にできない層が連続し、深さ10mでやっと支持層が出てくるという結果でした。
判定結果の長さ10mの鋼管杭が数十本必要で工事費に100万円かかるというのも不当では無いのですが、確かにコスト的に厳しいです。また、お施主さんは慎ましい人で工務店も地方で利益率を削りながらいいものを作ろうとしている会社で、決して邪に地盤改良の費用を惜しんでいるわけでは無かったので、自分の腕試しも兼ねて一つの方法を試してみることにしました。
一般に知られている地盤の支持力や不同沈下の判定基準は、地盤の不確定要素や検討の簡略化のためかなり安全率を大きく取っています。一方で建築学会などが出している技術基準ではより詳細な検討をする方法が掲載されています。そこで、SS試験の5ポイントそれぞれの圧密沈下量を詳細な計算で割り出したところ基礎の中央がV字型に変形するものの変形量は2.5/1000未満で許容値内であるという結果が出ました。
この結果を工務店とお施主さん交えて協議した結果、念のため基礎に補強鉄筋を追加した上で地盤改良無しで行こうという事になりました。
私のこの判断はリスキー過ぎるという批判もあるでしょうが、私自身は必要とあれば客観性を持った技術的根拠をもとに踏み込んだ判断をするのは構造設計を行う専門家の責務と考えています。 逆に考えると通常の地盤改良の要否の判定は、こうした詳細な検討を省略する代わりに安全側に地盤改良工事をするように判定しているともいえます。
※ご注意:この事例では地盤改良不要となりましたが、詳細検討をすればみんな改良不要となるわけではありません。
現在は上記の計算を表計算ソフトで地盤沈下や液状化の簡易判定が素早く出来るようにしています。
地盤セカンドオピニオンってどうなの?
地盤調査・地盤改良を一括で受け持つ地盤保証会社に対して、地盤セカンドオピニオンを謳う業者も現在複数います。最近この業者名を検索ワードにしてこのページにいらっしゃる方々が増えてきました。
地盤セカンドオピニオンとは、地盤保証会社などが実施した調査結果を地盤セカンドオピニオン業者が第三者として精査し、地盤保証会社が地盤改良必要と判定が不適切と判断される場合は代わりに地盤改良無しで不同沈下の保証を行い報酬を得るというビジネスモデルです。設計者たる建築士が前述の地盤調査結果の考察が出来ない場合、代わりに考察をするサービスとも言えます。
ではこの地盤セカンドオピニオンの判定は大丈夫なのか?というのが悩みどころですが、先日その地盤セカンドオピニオンの判定を検証してほしい旨の相談を受けました。その内容は、ほぼ前項で私がやった沈下の詳細計算そのものでした。前述の通りこのやり方はリスクを考慮しながら一歩踏み込んだ判定のため、判断する担当者の技量が伴っていれば良いのですが、素人に近い担当者がマニュアルに従って機械的にやっていると危ないかな?というのが個人的な感想です。幸い相談案件では問題ありませんでした。
地盤調査結果の解析、保険法人に提出する地盤判定の検討書作成、地盤改良工事内容のVEを承ります。
VEは工事費減額に応じた成果報酬制なので安心です。
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