震災の度に住宅の倒壊が報道されますが、四号建築と呼ばれる木造2階建て住宅などの建物は建築確認申請で構造計算が義務づけられておらず、現実に構造計算されていないという実態は、建築業界では常識である一方で一般消費者の人々にはほとんど知られていないかと思います。構造計算されていない木造2階建て住宅の耐震性などの安全性はどうなのでしょうか?
なぜ構造計算されない?
建築業界の方々にはおさらいになりますが、木造2階建て住宅等の四号建築が構造計算されない理由をまとめてみます。 先ず四号建築とは建築基準法第6条1項四号に当てはまる建物で具体的には
- 木造2階建以下かつ延床面積500㎡以下(特殊建築物は200㎡以下)かつ最高高さ13m以下かつ軒高9m以下
- 木造以外で平屋建て以下かつ延べ床面積200㎡以下かつ最高高さ13m以下かつ軒高9m以下
の条件を満たすものです。
※平成30年6月27日公布、平成31年6月25日施行の法改正で特殊建築物の四号建築は100㎡→200㎡以下となりました。
建築基準法第20条第1項四号にて木造2階建て住宅等の四号建築は耐震性等の構造耐力について
イ 当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合すること。
ロ 前三号に定める基準のいずれかに適合すること。(=構造計算を行うこと)
のいずれかに適合する事を求めています。つまり木造2階建て住宅等の四号建築はこのイの方法を採れば建築基準法上は構造計算書が無くても確認申請が通る事になります。 さらに木造2階建て住宅等の四号建築は建築基準法第6条の3三号にて建築士が設計をすれば後述の壁量計算書や構造関係の図面を確認申請に添付しなくて良いとされています(いわゆる四号特例)。 つまり、木造2階建て住宅等の四号建築は構造計算が義務づけられていないだけで無く、耐震性などの構造耐力に関わる仕様規定を満たしているかの検討書や図面も確認申請に提出を求められず、本当に法律に適合しているのかすら誰にもチェックされないのが現状です。
※審査機関によっては参考資料として壁量計算書等の自主的な提出を求めているところもあります。
構造計算しない建物の耐震性は?
木造2階建て住宅等の四号建築は前述のように構造計算が義務づけられておらず建築基準法施行令40~49条などの技術基準いわゆる仕様規定を満たせば良いとされています。それではこの仕様規定はどの建物の強度は確保されるのか解説します。
壁量計算:
木造住宅の耐震性の規準で最も有名な規定で、耐震性については床面積に応じて一定以上の筋かい等の耐力壁を設ける様に決められています。しかしこの壁量の規準を満たした状態の建物を構造計算してみると、20~40%程強度が不足します。これは耐力壁以外の壁、所謂「雑壁」も地震の1/3程度を受け止めてくれる事を前提にしているためです。しかし最近のリビングの広い間取りや採光や導線のために開口部が大きく多く、雑壁の効果はあまり期待できません。先日の熊本地震でも比較的新しい住宅が倒壊してしまっています。
4分割法:
筋かい等の耐力壁の総量のみを規定してると、採光のため南側の壁が少なく、開口の少ない北側の耐力壁が多い偏った建物になります。阪神・淡路大震災でこのような偏った壁配置をした住宅がねじれて倒壊する被害が多く見られました。この対策として告示1352号で耐力壁をバランスよく配置する4分割法という規準が定められました。しかし、この規準は構造計算で偏りを示す指標の偏心率が0.3以下を実現できるよう取り決めされたものですが、偏心率0.3というはかなり偏りの大きな建物で構造計算では一般に半分の偏心率0.15以下で設計されます。
また、2000年の基準法改正以前の住宅はこの検討も行われていません。
柱頭柱脚金物:
阪神・淡路大震災で木造住宅の多くが柱が土台から引き抜けて倒壊してしまう被害が生じた事を受けて、柱の柱頭柱脚に引き抜き防止金物を設置する規定が設けられました。しかし、これらは略算のため構造計算した場合と比べると金物の強度が不足したり、逆に金物が過大になっていたりします。
また、2000年の基準法改正以前の住宅の多くは柱の引き抜き防止対策はほとんど行われていません。
梁の強度:
木造2階建て住宅等の四号建築では2階床や屋根の重量を支える梁について具体的な規準がありません。スパン表という早見表やプレカット工場任せになっている場合も多いかと思います。しかし、こうした住宅の検討を依頼されて強度やたわみの計算をしてみると強度や剛性が不足という結果になる事が少なくありません。 木造の場合竣工直後は大丈夫(に見える)であっても、木材というのはクリープ現象(力を長期間かけ続けるとだんだん変形が大きくなっていく現象)を起こすため、何年か経ってから二階の床が傾いたり壁のクロス割れ等の欠陥が生じるリスクがあります。
床や屋根の計算:
阪神・淡路大震災で木造住宅は筋かいなどの耐力壁が足りていても屋根や床の強度が足りず、耐力壁が地震に耐える前に建物が大きく損傷してしまう被害が出ました。これを受けて構造計算では床や屋根の強度計算も行うようになりましたが、仕様規定では施行令46条3号で曖昧な規定がされているのにとどまっています=現実には何も検討されていません。最近は2階床は24~28mmの厚手の構造用合板を使った強度の高い根太レス工法が普及しているものの、それ以外の屋根や下屋、ルーフバルコニー等は依然弱点を抱えたままになっています。
基礎:
基礎についても、必要な地耐力が定められている程度で安全性を確保するための具体的な規定はありません。瑕疵担保保険の技術基準である程度強度を確保する規定が設けられていますが、点検用の開口部や大きな窓の下、筋かい等の耐力壁の部分の地震時の強度などに不十分な箇所が散見されます。このため数年後や震度5強以上の地震のさいに大きなクラックが入るリスクがあります。 一般に安全性の検討を簡略に済ませる場合、万が一にも強度不足にならないように詳細な計算をしたときに比べて高い安全率が設けられていますが、木造2階建て住宅等の四号建築の仕様は構造計算をしたときよりも安全率が全般的に低くなっています。一時予定されていた四号特例の廃止もこの事実を懸念してというのが一因にあると思われますが、平成19年6月の建築基準法改正に伴う混乱の影響か廃止そのものが棚上げされたままです。
木造2階建て住宅の壁量計算図表の例 耐震性などの強度検討はこれ一枚でおしまい
ツーバイフォーは大丈夫なの?
結論から言うと、よほど無茶なプランをしていない限り耐震性については大丈夫です。ツーバイフォー工法の2階建ては木造と同様に確認申請で構造計算書の添付が免除されていますが、外壁と中の間仕切り壁そのものが面として地震に耐える構造のため、普通にプランをしていれば十分な耐震性をもった建物ができあがります。
また、ツーバイフォー工法は告示1540号にて在来木造に比べて細かく仕様が決められているのでその点でも耐震性は有利といえます。阪神・淡路大震災で木造の脆弱さが指摘された一方でツーバイフォー工法の耐震性の高さが注目されましたが、これは設計者が意識しなくても十分な耐震性が確保されるというツーバイフォー工法の利点が発揮されたからといえます。
自主的に構造計算をしている物件もある
木造2階建て等の四号建築の法規制が緩い一方で、設計事務所・工務店・ビルダー等の中には差別化のため自主的に構造計算をかけ、耐震性の高さを売りにしているところもあります。 こういった設計事務所・工務店・ビルダー で自主的に基準法の1.5倍の耐震等級3で許容応力度設計が行われている建物は安心して良いでしょう。耐震等級3の住宅は実大振動実験で阪神淡路大震災の揺れを加えても小さな損傷で済むという実験結果もでています。
実験結果の資料((財)建材試験センター)はこちらにあります ※リンク切れしてしまったようです
木造住宅を建築・購入を検討していて耐震性が気になる方は、ご契約前に一度確かめてみると良いでしょう。「構造計算をしてほしい」と要望を出しても渋るところに住宅を依頼すべきでは無いです。
私の事務所にも木造平屋や2階建ての四号建築でも、耐震等級3で構造設計をしてくださいという依頼が増えてきました。
構造計算していると広告しているが構造計算していない住宅
長期優良住宅で構造計算していますと謳っている木造2階建て住宅には実は構造計算していないものもあります。どういうことかというと住宅で耐震性の高さを示す耐震等級は品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)でその基準が定められていますが、木造2階建てでは許容応力度設計という鉄骨や鉄筋コンクリート造と同様の構造計算で行う方法と告示1347号第5に基づく基準法の壁量計算+α程度の簡易計算を行う仕様規定による方法の二通りがあるのです(木造3階建ては許容応力度設計が原則必須)。
仕様規定でも法律で認められた安全確認方法で四号建築の検討しかしていない住宅よりずっと耐震性は高いですが、あくまで簡易計算であり構造計算では無いのです。しかし設計事務所・工務店・ビルダー自身が仕様規定による簡易計算を構造計算だと誤解して「構造計算をしている」と宣伝している事が多い様です。構造設計者としては甚だ不本意ですが。
建築で「構造計算」とは建築基準法第20条第1項一~三号等で定める時刻歴応答解析・限界耐力計算・保有水平力計算・許容応力度等計算だけです。
仕様規定による耐震等級2~3の計算は構造計算に比べ計算費用が安いのでi-木構にも仕様規定で計算をしてほしい旨の依頼がしばしば来るのですが、安全性の確認について取りこぼしのリスクが懸念されるので受け付けていません。
大工さんの建てる家でも構造設計も耐震等級3も可能
少し話は逸れますが、大工さんのところに営業に行ったさい「自分たちは住宅メーカーでないから耐震等級を取るのは無理」と自分たちは耐震等級は取れない四号建築しか建てられない考えておられました。昔ながらの大工さんはそう考えておられる方が多い様です。しかし、実際は昔ながらの大工さんの建てる住宅でも構造計算し耐震等級3に出来ます(寺社建築など耐力壁が入れられない建物は限界耐力計算という特殊な計算が必要でかなり大変ですが)。
また、丁寧な仕口加工や自然乾燥木材にこだわっている大工さんの住宅であれば構造計算結果は同じでも実態の耐震性や耐久性はむしろビルダーやメーカーの住宅より高くなります。こうした大工さんたちにはこれまでの四号建築の住宅にこだわらず、耐震等級3の住宅や店舗建築などにも仕事の幅を増やしてほしいですね。i-木構としてもこうした大工さん達を応援し力になりたいです。
「確認申請が降りた」は安全のお墨付きでは無い
一般消費者だけでなく、建築士や住宅メーカーの方々にも「確認申請が降りた=耐震性等の安全性にお墨付きをもらった」と誤解している方が多いのですが、実際は確認申請は法律で定められた必要最小限の規準を満たしているかを"確認"しているだけです。特に木造2階建て住宅等の四号建築は設計図書の多くが省略できるため、 木造2階建て住宅等の四号建築の 建物の安全性はそれを設計する建築士が責任を持って確保する事が前提になっています。そして構造計算を省略した場合の地震などに対する安全性は、構造計算をした場合に対して一段低いものになっているのが現状です。 また、近年裁判でも消費者の立場に立ち建築士や施工会社に対し、必要な安全性を確保する行為がなされていたか厳しく問われる判決が出ており、「法律を守っているから責任を問われない」とはなりません。住宅を手がけている設計事務所、ビルダー、工務店さんらも「法律を満たしているかどうか」ではなく「消費者に自信をもって安全性なもの」を届ける様今一度考える時期ではないかと思います。
安全な住宅を手に入れる為のキーワード
ここで消費者の皆様に安全な住宅を手に入れるためにキーワードを紹介しておきます。
「御社の住宅は許容応力度設計で耐震等級3で構造設計されていますか?」
※必ず“許容応力度設計”を入れてください、簡易計算を構造計算とうたっている業者もいますので
この質問をして、はぐらかしたり渋ったりするところで建築・購入するのは避けましょう。
参考リンク
2021/12/15 追記
木造2階建て住宅の確認申請に新たな動きがありました
四号特例いよいよ廃止!?
ご自宅の耐震性について不安のある方、ご検討中の住宅の耐震性が気になる方
ご相談を承ります
工務店様、ビルダー様などで品質向上のため自主的な許容応力度法による構造計算をかけたい
耐震等級2~3の住宅を計画したいとお考えでしたらお手伝いさせていただきます。
構造設計技術者を育成・内製化したいとお考えであれば、内製化のコンサルも行っていますのでご相談ください。