建築学会の大規模木造関係のシンポジウムに行ってきました。

これは現在企画されている「大規模木質構造の構造設計規準(案)」に関係したものです。会場は満席で関心の高さがうかがえます。

内容は構造設計者向けに技術的な根拠などより深く踏み込んだものでしたが、中大規模木造を手がける建築関係者にとっても重要そうな話題を簡単に紹介します。

二つ割り筋かいは階高が高くなると性能が低下する

その低コストと使い勝手の良さから中大規模木造でも、45x90mmの筋かい耐力壁は使い勝手が良いので多用されます。しかしこの筋かい耐力壁の性能は階高2.73mを基準に決められています。しかし、昨今では住宅でも階高3mが主流になりつつありグレー本でも耐力壁長さの3.5倍-長さ910mmなら階高3.185mまでOKとなっていますが、実際に実験をしてみると階高3mでは壁倍率2倍が1.7倍まで低下してしまいます。また、高さ2.73mでも長さを1.5P (1.365m)や2P(1.82m)にすると1.5mに下がってしまいます。
法律上は使用してもOKなのですが、現実の性能的には15~20%程性能が下がってしまうので、構造設計上よろしくないといえます。

対策としては筋かいの断面を45x120とする必要があるそうです。また筋かい耐力壁の性能は、材木がくの字に曲がって壊れる座屈破壊で決まるのですが、壁に石膏ボードや合板を直貼りすると筋かいの材木が折れ曲がるのを防いでくれるのでこれがあれば所定の壁倍率は確保出来るそうです。

まとめると
・筋かい耐力壁は階高3m以内
・階高2.73mを超えるときは両面に石膏ボードなどを直貼りする
・直貼りが出来ないときは筋かい断面を45x120mmにする
以上の対策が必要になります。

また、中段規模木造となるとどうしても階高3m以上で計画をしなければならない事態が生じます。この場合は柱の真ん中で横材を入れて上下2段の筋かいで対応する案が提案されています。詳しくは中大規模木造プレカット技術協会の標準図に記載されていますのでご参照ください。

90×90のたすき掛け筋かいは壁倍率5倍出ない

中大規模木造では二つ割り筋かいでは十分な性能が出せないときに建築基準法施行令46条表1(7)にある90x90mmたすき掛け筋かい(壁倍率5倍)もよく使われますが、こちらも実験してみるとたすき掛けの交点の座屈や筋かい端部の滑りで90x90たすき掛け筋かいの実際の壁倍率は2.3倍程度しか出ないのが判明しました。こちらも本来の壁倍率5倍が出る様改正案を検討中ですが、当面は使用を控えた方が良さそうです。

また、筋かいに限らず高倍率の耐力壁は柱が土台にめり込む現象による影響で性能が低下しやすいので、土台はなるべく固い木材を使う、添柱やめり込み金物で対処するとが提案されていますが、個人的には小細工をするより土台の木材をクリなどの広葉樹系を普及させた方が良い気がします。

ルート3の可能性

現状中大規模木造は、構造設計一級建築士の関与が不要で適合判定も無い所謂ルート1での構造設計が主流ですが、規模が大きくなってきたり特殊な形状の建物ではルート2さらにルート3の設計が必要になる可能性増えてくると思われます。ルートでは構造特性値Dsが重要になるのですが、木造では建築基準法告示第1792号第2で明示されているものの、具体的な求め方についての法律も技術資料も乏しいというのが現状です。シンポジウムではこれまでの耐力壁の実験研究の文献から求めたDs値の例が紹介されました。

Ds値の傾向を大ざっぱにまとめると以下の様になります。
・構造用合板を用いた2.5倍以下の倍率の低い耐力壁:0.3~0.35
・同2.5倍を超える倍率の高い耐力壁:0.4~0.45
・二つ割り筋かい:0.45(片)~0.5(たすき)
・90x90筋かい:0.55(片)~0.6(たすき)
※数字が小さいほど建物の靭性(ねばり)があり壊れにくい

鉄骨造や鉄筋コンクリート造でルート3で設計する場合、Ds値=0.3程度を目指して設計されるので木造は全般に数値が大きくなり不利になりそうです。

※貫などの要素を用いる伝統構法系の木造建物は逆に靭性に富んだものになると思われます。

設備配管のための穴開けは可か?

建物の規模が大きくなってくると、設備配管等で要求されるスリーブ穴の必要径が大きくなり住宅のときの様に梁の下にくぐらせるのが難しくなって来ます。現状はJIS A3301木造校舎の設計標準に掲載されている開口の径は梁せいの1/4以下としていますが、非住宅だと必要な径も大きくなるので、梁せいの1/3程度の大開口を空けたときに実験研究について紹介されていました。梁せいの1/3程度の直径の開口であれば可能となりそうですが、そのときの梁の強度の推定式はまだこれからの様です。

平面混構造

 当事務所でのコラムで書来ましたが、縦方向(階ごと)の混構造は設計方法が確立されていますが、建物の各階の階段室回りなど一部分を鉄筋コンクリート造として残りを木造とする建物は、告示593号で地震力を1.5倍するか特別な調査又は研究によるとされています。そこで3階建ての学校の階段室のみ鉄筋コンクリート造とした建物の振動解析を行った事例が紹介されました。低層の学校の様な鉄筋コンクリート造の比率が小さい建物では、木造部の地震力が1.5倍を超える箇所も発生していました。
現状でも振動解析を行い個別評定を受ければ建築出来ますが、鉄筋コンクリートと木造では耐力要素も床も剛性が全然違うため、簡易な構造設計法を確立するにはまだかかりそうです。

 

以上端折ってしまったテーマもありますが、出席できなかった方の参考になれば