株式会社i-木構では、木造建築の構造設計において、安全性とコストの最適なバランスを常に追求しています。今回は、当初「地盤改良が必要」と判定された物件において、詳細な解析を行うことで直接基礎(改良なし)での施工を可能にした事例をご紹介します。
告示1113号による初期判定と追加調査
とある木造非住宅物件の設計において、当初は告示1113号に基づく一般的な地盤検討を行いました。その際の結果は、深さ4m前後にある軟弱層が原因で深さ5~6mの地盤改良が必要であるという判定でした。昨今の資材高騰が続く状況下で、お客様からは「可能な限り工事費を抑制したい」という切実なご要望をいただいており、構造設計者としてもう一歩踏み込んだ検討が必要だと判断しました。一般的にはスウェーデン式サウンディング(SS)試験で済ませる規模の建物でしたが、より精度の高いデータを収集するため、追加でボーリング調査および三軸圧縮試験などの室内土質試験を実施しました。
簡便な計算から、精緻な解析への移行
追加調査のデータを元に再検討を行いましたが、残念ながら先ほどの軟弱層が悪さをして若干地耐力が不足するという結果になりました。
ここで「やはり改良が必要」と結論付けるのも正当です。実際三軸圧縮試験を実施してもダメだったのですから。しかし、ここで諦めてしまってはという技術者の変なプライドがでてきました、何より無理言ってお金のかかる調査をしてもらって「やっぱりダメでした」は少々気まずい。
実は構造設計の業界は時間=コストなので何でもかんでも精緻に計算していると、構造設計料は天井知らずになり、様々な実測データの収集が必要になり、図面と計算書が完成するのも○ヶ月、○年先になってしまいます。そのため普段実務で使われる構造計算式は少ない手間と情報の基でも検討できる様に安全マージンを取って簡便化されている事が多いです。
そこで建築学会の建築基礎構造設計指針や小規模建築物基礎設計指針を引っ張り出して、通常よりさらに精緻な検討をして安全性を確保した上での最適解を求めてみました。今回検討に対話型AIと討論しながら すすめました。自身の計算ロジックに客観的な視点から不備/見落としがないか、あるいは物理試験データの解釈に矛盾が生じていないか、基準書に出てくる数式の根拠は何であったかなどAIと「壁打ち」を繰り返すことで、思考の整理と判断の妥当性を高めていきました。

写真:一貫計算ソフト(ARCHITREND ZERO木造構造計算)の出力結果をもとに
エリアごとの軸力や基礎自重を手計算で積み上げ、沈下量を検証している様子。
最終的には、ベタ基礎の各エリアの正味の接地圧を求め、先ほどのボーリング調査+室内土質試験の結果から精度の高い沈下量の検討を実施して有害な不同沈下を生じる恐れは無いという結果を導き出せました。意図せず泥臭い電卓をはじいて紙に書く手計算、半自動化させたExcelシート、対話型AIという新旧織り交ぜた検討となりました。今回の作業はかなり時間をかけてしまったので検討フローの合理化、マニュアル化、Excelシートの改良をして所員全員ができる様に水平展開したいと考えています。
木造の「軽さ」を活かした設計判断
鉄骨造や鉄筋コンクリート造といった自重の重い構造では、こうした局面で杭基礎を選択せざるを得ないことが多々あります。しかし、比較的軽量な木造は緻密な検討を重ねることで、杭や改良なしの直接基礎を採用できるケースは決して少なくありません。これらは手間がかかる上に地盤についての正しい知識、考え得るリスクを予見して設計方針を固めて地盤の何のデータが必要かの判断力が求められます。このため敬遠する構造設計者も多いのが実状です。
構造設計者の役割として
安全のために地盤を改良することは決して間違いではありません。しかし、資材高騰により建設費が嵩み苦しんでいる設計者やお施主さんの状況を考えると、今後は少ない手数と安全マージンによる安心感に安住せず、一歩踏み込んだ検討と提案が必要と考えています。
もちろん、検討の結果として改良が必要になるケースも当然ございますが、安易に既定の判定に従うのではなく、可能性を追求する姿勢も大切にしたいですね。
余談
最後にExcelシートを改良するための関数をAIに提案してもらったら、AIくん数式をちょっと間違えてました(検算で判明)。AIは対話討論相手としても優秀ですが、人間と同様に時々間違えるものだと注意する必要がありますね。
【ご注意】 本事例では詳細な検討の結果、改良不要との判定に至りましたが、地盤条件や建物形状により精緻な検討をしても改良が必要になるケースもございます。弊社では常に現場ごとの条件に基づき、個別に最適な判断を行っております。

