「公共建築物木材利用促進法」が2010年10月1日施行されてから3年半が経ち、大規模木造(延床500㎡超)や中規模木造(延床500㎡未満の非住宅)がだいぶ認知される様になってきました。
しかし、多くの設計者の間で「500㎡を超える大規模木造建築は大断面集成材や金物工法を使用しなければならず、鉄骨造などで建てるより建設費が高くなる」という話をよく耳にします。どうやら設計事務所や建築主さんのあいだで大規模木造は高いというイメージが浸透してしまい、興味はあるけどためらってしまうことが少なくない様です。
では本当に大規模木造は本当にコスト高か?いえ2階建て延べ床1,500㎡程度までの中大規模木造であれば木造住宅で使われる製材、集成材、Zマーク同等認定金物で施工できるため鉄骨より安く建築出来ます。
金物工法は強い?
金物工法は「大スパン飛ばせる」「地震に強い」という宣伝されていますが、批判を恐れず率直に書きますと原則大スパン梁でも条件は大して変わらず、門型フレームもそれほど耐力はありません。
・木造の梁で大スパンを飛ばすにはたわみを小さくする必要がありますが、それには①梁の断面を大きくする②梁の端部を回転しない様に固定するのどちらかが必要になりますが、普通の在来工法も金物工法も端部が原則回転に対して固定されていません。条件はほとんど変わらないのです。
・また、金物工法の門型フレームも、一番大きな力がかかり、一番しっかり固定しなければならない柱梁接合部に金物があり、この部分が回転してしまうため謳い文句ほどの高い耐震性は発揮できません。このため多数のフレームが必要になり建設コストをさらに押し上げることになります。
金物工法は通し柱や受け梁の断面欠損が少なくできるというメリットはあり、決して無駄ではないのですが、必須では無いため従来の住宅向けの材料と工法を用いて安く大規模木造を建てる事は十分可能なのです。
大断面集成材は必要?
単純に金物工法を止めただけではコストダウンにはなるものの、まだ割高になります。
安く上げるには一般的な製材所や集成材工場で生産出来、一般的なプレカット工場で加工できる木材とZマーク同等認定品などを用いて構造設計する必要があります。
構造設計者の間でも大規模木造=大断面集成材という先入観がありますが、工夫次第で大断面集成材を使わない又はごく一部にとどめる事ができます。それには製材所・集成材工場・プレカット工場の状況を把握する必要がありますが、i-木構はそれらと密にコミュニケーションを取りコストを抑えながら構造設計します。
当事務所で住宅用材料のみで設計した例(延べ床面積約1,300㎡)
尺寸のゾーニングがコストダウンに有効
普段鉄骨や鉄筋コンクリート建物を設計されている設計者は910~1000mmグリッドを意識されない方が多いですが、中大規模木造でコストダウンを考えた場合は圧倒的に尺(910mm)かメーター(1,000mm)でゾーニングした方が有利です。これは床や壁などのに使用する構造用合板や石膏ボード等の定尺が尺やメーターのため、中途半端な寸法でゾーニングしていると加工手間が増えるだけでなく材料の歩留まりが悪くなるためです。特に大規模木造だと合板や石膏ボードの面積が大きくコストアップの幅も無視できなくなります。
特に910mmの尺モジュールは流通が多い分調達価格が抑えられます。
木造の最大のメリット 軽い
建物は地盤の上に建ち、地盤が弱ければ杭工事や地盤改良工事が必要になります。ここで準耐火までの木造は床面積あたりの重量が鉄骨の半分以下~1/3程度と非常に軽く地盤への負担が少ないというメリットが生きます。 結果同じ地盤であれば鉄骨の杭工事費に比べ木造の地盤改良はかなり安くできます。また、2階建て程度でベタ基礎工法にすると接地圧は20~40kN/㎡程度で収まるため、地盤調査結果次第で地盤改良そのものが不要になることも珍しくありません。建設コストを比較する際上物の躯体コストに目が行きがちですが、地面の下で数百万円単位のコストメリットが出るのです。
建主のメリット 減価償却期間が短い
建設コストとは直接関係ないのですが、店舗などの事業用の建築物の場合木造は税制上減価償却期間が短いというメリットがあります。税制上の建物の耐用年数は実際の耐用年数ではなく工法毎に一律に決められていてたとえば保育園や老人ホームの場合、鉄筋コンクリートでは47年、鉄骨造では34年に対し木造は22年となっています。つまり建主(事業主)は建設費が同じであれば木造の方が減価償却期間が短い分、毎年大きな金額を経費計上でき経営上、収支上有利になります。木造建築=寿命が短いというイメージがありますが、現在では木造建物の耐久性確保や維持管理のノウハウが蓄積され、鉄骨造やRC造に比べても遜色がなくなっています。
適判を回避しやすい
鉄骨造やRC造では確認申請の際にピアチェック=構造計算適合判定が必要になるケースが多いですが、木造の場合ほとんどがルート1で収めることができるほか、木造は軒高9m建築高さ13mに収めて木造の仕様規定を満たしていれば床面積が大きくても適判にかかりません。特に住宅以外の商業施設などは開業時期が決まっており設計・審査スケジュールが厳しいケースが多いので、審査費用と期間を節約できるのはメリットといえます。
木造化のメリットとしてよく木のぬくもりやリラックス効果等が言われますが、構造設計の工夫次第でコスト的にも鉄骨造やRC造より木造にするメリットが出てきます。保育園、老人ホーム、店舗等を計画のさいは一度木造を検討されてみてはいかがでしょうか?
当事務所設計例:トラス架構は金物を使わず仕口加工とボルト引きで設計しボルトも隠しています。
トラス架構の屋根は最大スパン20m程度まで特殊な金物や工法を使わずに簡単に飛ばせます。
設計・施工:神谷建設(株) プレカット:材惣木材(株)
当事務所設計例:規格品の集成材とZ金物のみで2階梁芯芯6mスパンの空間を実現しています。
設計・施工:山旺建設(株) プレカット:(株)マノモク
延べ床1,500㎡を超えるとどうなる?
最近(平成27年)は1,500㎡を超え延べ床2,000㎡前後の建物の相談や依頼も増えて来ました。
実際に構造設計したところこのくらいの規模になると一般的な住宅向けの梁材や耐力壁やネダレスの床だけでは厳しくなり、大臣認定の高倍率の耐力壁や金属ブレースなども必要になってきます。また木造校舎の構造設計標準JIS A3301の高倍率の耐力壁や床仕様も活用していく事になります。
このあたりの規模になると住宅向けとは違うノウハウが必要となってくるので、設計者、構造設計者、プレカット工場、施工者で協力して標準的な手法を確立していく必要がありそうです。
保育園・老人ホーム・店舗等の大規模木造建築の構造設計・構造計算、事前相談を承ります。
コストダウンの他、燃えしろ設計・トラスフレーム計算等にも対応し、提案いたします。