<前回の記事はこちら>

Q. 高額な工法を使わずに、コストを抑えて大空間の畜舎を建てる方法は?

A. 畜舎特有の「緩和規定」を活用して厚さ30〜60mmの「薄肉材」を組み合わせた木造トラス+方杖架構で構造計画することです。

前回の記事で解説した通り、住宅用のプレカットや特定工法への依存がコストを押し上げます。コストダウンの核心は、法規の読み解きと調達・解析のイノベーションにあります。

畜舎における構造緩和の適用条件と概要

先ず木造畜舎をローコストに抑える上で、国土交通省告示474号 特定畜舎当建築物の構造方法に関する安全上必要な技術基準を定める告示に定められた緩和規定の活用は必須です。実務において外せない適用条件と緩和内容の概要は以下の通りになります。

適用の条件

  1. 木造、補強コンクリートブロック造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、これらの併用構造の建築物 ※補強コンクリートブロック/鉄筋コンクリート造は擁壁と隔壁のみに使用可
  2. 階数が1であること
  3. 最高高さ13m以下、軒高9m以下
  4. 柱間隔15m以下
  5. 市街化区域以外に建設し、居室を設けない
木造の場合平屋で高さ13m、軒高9m、スパン15m以内の市街化区域外(市街化調整区域又は未線引き区域、都市計画区域外)の条件が揃えば適用可能になります。

構造計算上の緩和措置の概要

  • 施行令46条の壁量計算の制限が無くなる
  • 地震時の層間変形角の制限(1/200又は1/150、1/120)が無くなる ※地震力自体は一般の建物と同じ
  • 積雪荷重の緩和(積雪50~60cmの地域で4割ほど減)
  • 風圧力の緩和(72~90%に低減)
構造設計上重要をいえるのは以下の2点です。
  1. 施行令46条の制限が無くなる事によりJAS製材や集成材が求められ、含水率の制限の厳しい46条2項ルートを使う事なく筋かいや耐力壁の無い計画が可能になる
  2. 層間変形角の制限が無くなることにより、剛性がネックになりやすい木質ラーメンや方杖架構が採用しやすくなる

コストダウンの主役「薄肉材」と地元製材所の活用

上記の緩和規定によって「耐力壁なし・方杖架構」が可能になりますが、もう一つネックになるのが前回触れたプレカット加工費です。 それに対する答えが薄肉材をボルト留めする構法です。

厚み30mm、45mm、60mmといった一般に用いられる柱梁の木材より薄肉の木材を所定の長さに「切りっぱなし」で切断し、それらを現場で組み合わせてボルトやビスで接合し、トラスや方杖を構成していきます。

薄肉材を使った方杖付のトラス架構詳細図

薄肉材を使った方杖付のトラス架構の例

上図は当事務所で過去に構造設計した13mスパンの方杖付トラス架構の例です。さすがに柱などは90x180の断面を用いていますが、大部分は30~60mm厚の薄肉材で構成しています。下弦の梁と上部の登り梁は2枚として、柱や束、斜材を挟み込みそれをボルトで固定しています。所定の長さのに切断した木材を組み合わせ、仕口加工や金物のスリット加工を無くしているのが確認できますでしょうか?

また、木材の調達について、一般にはプレカット工場や材木問屋、商社が窓口になります。しかし、畜舎の建設地は地方であることが多く、その建設地の近くには山の麓で「乾燥釜を持っている製材所」があるケースが少なくありません。薄肉材は一般的な105〜120mm幅の構造用製材よりも中まで乾燥させやすいため、川上に近い地域の製材所で対応しやすいという事情があります。

つまり、地元の製材所と直接やり取りして乾燥・製材してもらうことで、材木の流通の中間マージンを省きつつ、緩和規制を活用してJAS材に縛られない自由な材料調達と設計が可能になります。これが、特定の工法に縛られずに建設コストを引き下げる最大のキモです。実は畜舎を安く建設するための源泉(製材所)が直ぐ近くにあったのです。

「任意フレーム解析」で架構を解析する

では、この「耐力壁なし・薄肉材のボルト接合」という特殊な骨組みの安全性をどうやって確認申請で証明するのか。ここで用いるのが「任意フレーム解析」です。

パッケージ化された一貫計算ソフトは効率良く構造計算をする上で非常に有用ですが、このような規格外の架構は解けません。特殊な形状をした鉄骨造と同様に方杖を組み込んだ骨組みを任意フレーム解析ソフトで0からモデル化して応力を解析しています。 さらに、水平構面も一般的な90x90の火打や合板等を用いた剛床とするのではなく、薄肉材のブレースを配置するので床倍率では解けずこちらも任意フレーム解析ソフトを用います。一般にこうした解析をするには、接合部の剛性を正確にモデル化して変形まで精度良く解析する事が求められますが前述の「変形角の制限が無くなるためハードルが一段下がる」という点がここで活きてきます。

 2025年の法改正により、特定畜舎の緩和が受けられる建物でも延床面積300㎡を超えると構造計算が確認申請に必要になりました。しかし、構造計算によって安全性を証明してしまえば問題ありません。

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Q. このローコストな手法は、畜舎以外の「普通の木造建物(一般建築物)」にも使えないのでしょうか?

A. 架構をそのまま全体に適用するには法規制のハードルが高いですが、「屋根架構」だけに限定して応用することは十分に可能です。

畜舎以外の一般的な建物(店舗や倉庫など)の場合、先述の「層間変形角の制限撤廃」や「46条(壁量計算)の制限撤廃」といった緩和が受けられません。そのため、46条2項ルートなどの厳しい制限がかかり、純粋な木質ラーメンや方杖だけの架構で建物を成立させることは、変形(剛性)の面からも法規の面からもいささかハードルが高くコストメリットも小さくなります。

しかし、壁や柱といった小屋組までの構造は一般的な耐力壁などで設計した上で上で、「大スパンを飛ばす屋根部分」にのみ、この薄肉材を用いたトラス架構を採用することは大いに有効です。 「屋根だけ」であれば一般建築物でも適用しやすく、大空間が求められる非住宅木造において、国産材を用いた屋根架構を意匠的にも見せつつコストダウンする手法として応用することができます。

薄肉材を用いた木造トラス屋根

当事務所で設計した9.1mスパンの薄肉トラス屋根の例

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この様な手法は実は昔からあります。ではなぜこの安くて建設できる手法があまり認知されていないのでしょうか?

➔ 次回予告

最終回(第3回)は、実務の裏側。なぜこのローコストな構造設計手法が普及していないのか、その理由を解説します。

 


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