先日木の建築フォラム 主催の「 公共建築等木材利用促進法と中大規模木造建築セミナー」に参加してきました。
http://www.forum.or.jp/menu2_3.html#seminar2012
これは2010年10月1日施行された「公共建築物木材利用促進法の施行」に伴い今後増えていく中大規模木造建築について、設計者・施工者がどうしていくべきかというテーマでした。かなり内容の濃いセミナーで、セミナーとなると途中で眠気と格闘する事の多い私も丸一日食い入るように聞いていました。ただ、内容を詰め込みすぎで駆け足になってしまったのが残念です。いろいろ質問したいことも多かったのですが・・・。2日に渡って開催しても良かったのではないでしょうか?

住宅とは違う中大規模木造独特の注意点なども参考になったのですが、やはり低層とはいえ役場や学校、保育園、老人養護施設などを木造化するとき、鉄骨や鉄筋コンクリートと比べて建設コストがどうなるか?というのが現実的に重要だと思いました。 国の方針として現状8%にとどまっている民間を含めた公共建築物を24%に引き上げる目標を掲げていて、これが実現すると床面積ベースで年間約230万平米もの木造建築の需要増が見込まれることになるのですが、多くの建物は厳しい予算と工期の中でやりくりする必要に迫られます。いくら国が木造化を推進してくれても、同程度の鉄骨や鉄筋コンクリートより工期も建設コストがかかるようでは普及はおぼつかない、そして建物の規模や機能、設備が同じなら工法によるコストの違いがでる原因は主に構造躯体=構造設計ですよね・・・。構造設計者の責任の重さが実感できます。
「今、木造建築に追い風が吹いているが、これを追い風で終わらせてはならない」というセミナー主催者の締めの言葉が非常に重く感じられた一日でした。

セミナーの要約

①中規模木造建築の企画・計画・設計

建築家の北川原温先生よる大規模木造建築の事例として、地元のからまつを使用した長野県稲荷山養護学校岐阜県立森林文化アカデミー、2001年版グレー本にたずさわった稲山正弘先生発案の地獄の面格子を使った岐阜県飛騨牛記念館木の国サイト情報館などの紹介していただきました。
先生は生き物である木材を鋼材やコンクリートの様な工業材料と同じに扱う最近の風潮に疑問を呈してられました。また、地獄の面格子は内装を兼ねた耐力壁として応用ができそうです。

②公共建築物等木材利用促進法の概要と取り組み

林野庁木材利用課長阿部勲氏による公共建築木材利用促進法の解説をしていただきました。

この法律が制定された背景として、日本にある人工林1,000haの利用が進んでおらず、使いどころまで成長したまま伐採されない木が毎年8千立米(国内需要と同量)増加しているのが深刻な問題になっています。

一方で日本で着工される建築物のうち43%が木造ですがそのほとんどは住宅で、学校、保育所、養護施設、病院、役所等の公共建築物等の木造比率は8%しか無いためこれらの木造化と国産材利用を推進して改善を図ろうというわけです。国は公共建築物の木造率(床面積)を平成27年度までに24%に引き上げる目標を掲げています。このため低層の公共建築物は原則全て木造化を図る事、建築物内装に木質材料を使用する事などが定められています。

また、木造建築物の整備資金借り入れの利子助成や地方公共団体や民間事業者による木造建築物の施設整備・木質化への技術支援等が平成24年度予算概要にて地域材供給倍増対策として盛り込まれています。

③構造計画と構造計算・接合部の考え方

東京都市大学教授の大橋好光先生より中大規模建築物の構造設計にあたっての注意点についてなどを解説していただきました。いままで住宅中心だったり、木造に馴染みの無かった構造設計者が多いことを念頭に特に注意する点として以下が上げられました。

  • 耐震性等の目標性能を耐用年数を50年(木造住宅相当)とそれ以上の長期利用を想定した場合で区分け
    (50年超の建物の基準として地震時のC0や風圧力の割り増し、大地震時の変形への配慮、長期許容応力度を1.0/3Feとする等)
  • 横架材の変形制限は基準法より厳しい1/300以下かつ20mm以下で設計
  • 柱梁の断面は用途による積載荷重の違いや耐火の燃えしろに留意して部材断面を決定する
  • 構造材は原則JAS適合材とし、無等級材は使わない
  • 4号特例に当てはまる建物でも原則構造計算をする(基準法の仕様規定は住宅を想定しているため)
  • ルート1で設計する場合も偏心率0.3以下の検討を行う
  •  構造設計者は部材の材料費や入手性、施工体制を把握しつつ設計する
    (予算オーバーや工期遅延回避のため)

④防耐火設計

早稲田大学研究員・桜設計集団一級建築士事務所代表の安井昇先生より木造の防火技術についての解説をいただきました。

先ず木造は構造躯体が可燃物のため、家具や内装のみが可燃物の鉄骨造、鉄筋コンクリート造に比べ可燃物の量が3倍になります。このため木造建物は防耐火性については何も対策していないと火の回りが早く避難する時間が無い、容易に消せない、輻射熱で延焼しやすい等の問題があり、相応の対策が必要になります。

木造の耐火性能向上の方法として内装は着火しにくく構造躯体は火災がある程度火災が進むまでは燃えないようにし、火災が発生してすぐに内装と構造躯体が一斉に燃えないようにする事が重要との事です。また、柱梁の構造躯体は断面を大きくし燃えても建物を支えるだけの断面が残る様に燃えしろ寸法を確保する方法がとられます。

燃えしろの設計方法はよく構造計算で必要とされる寸法+燃えしろと誤解されていますが、柱梁の断面寸法から燃えしろ寸法を差し引き短期許容応力度で長期荷重を支える断面が残っていれば良いとの事です。

また、隙間無く施工された壁状の木材は遮炎性能が高く5.4cm厚の杉板が2時間以上の火炎に耐えた実験が紹介されていました。

        3階建ての学校の木造化に向けた実大火災実験について

安井先生から2012年2月22日におこなわれた木造3階建て学校実大火災実験の話題も出ました。

この実験は一般紙のニュースのみならず専門誌でもセンセーショナルに報じられ、大規模木造建物はやっぱり駄目なのでは?と印象づけられてしまいましたが、安井先生の話によるとこの実験は大規模な木造あらわし3階建て建物の可能性の検証と大型公共施設の燃え方についてのデータが今まで無かったのでその把握が目的で、燃えしろと防火区画の防火壁以外防火対策をあえてしていない状態で行っていたそうです。

また、実験前の予想より上方向への延焼が予想以上に大きかったのは事実ですが、実験は出火元の炎を大きくしてからの開始していたので「わずか数分で・・・」や「防火壁が20分経たないうちに・・・」という報道は少々大げさ過ぎるとのことでした。この実験を通して防耐火の技術と基準が整備される事に期待したいと思います。

⑤耐用・耐久設計

関東学院教授の中島正夫先生より公共建築向け建物の耐久性確保について解説をいただきました。

これまでの大規模木造建築の不具合事例の紹介があり、多くは雨水に晒されやすい設計が原因とのことで軒の出は90cm以上確保する、木材は地面より40cm以上上げて雨水の跳ね返りを回避するがポイントとなる様です。また、木口に湿気を帯びる金属やコンクリート等を接触させるとそこが急速に腐朽する例も紹介されました。

また、中段規模木造の耐久性の基準について50~60年と50~60年超の使用を前提とした二つの区分が設定されています。
ちらも品確法の劣化軽減の仕様をベースにしていますが、公共建築ということでどちらも追加・強化した基準が定められていました。代表的なものとして

  • 軸組や土台は小径や樹種にかかわらずK3以上の加圧処理材が必要(50年超)
  • 軒(けらば)の材料はK3/K4(50年)、K4(50年超)相当が必要
  • 熱橋となる部分に断熱材を施工(50年超)
  • 1階防湿に0.15mm以上のポリエチレンフィルムを敷き(品確法は0.1mm以上の防湿フィルム)床下換気は無し(フリーアクセスフロアを前提)
  • 屋根断熱のさいは通気層を設ける
  • 雨樋の管径は予想雨量に対し余裕を持たせる(50年/50年超とも)

このほかに木造建築物の耐久性は特に建設時の劣化対策維持保全の良否に大きく依存するため長期的な維持保全計画が必要とされます。

⑥集成材メーカーの取り組み

銘建工業株式会社社長の中島浩一氏より木材業界の動向と集成材工場についてお話をいただきました。

このなかで材木の価格推移と日本と諸外国の生産性についての話がありましたが、材木の値段が1980年をピークに1/10まで下がっている一方で、林業の生産性はここ40年で2倍程度しか向上しておらず林業の苦しい状態が浮き彫りになっています。一方でスウェーデンでは機械化などにより10倍の生産性向上を実現していて一人一日あたりの生産能力も日本の5m3/人日に対しスウェーデンは30m3/人日と圧倒的に差がついてしまっているそうです。国内に十分な森林があるにもかかわらず国産材の利用が進まないのもこれが原因の一つでは無いかと思いました。しかし、逆に考えれば日本の林業は改革次第でかなりの伸びしろを残していて将来有望な産業になり得るのではないかと思いました。

また、工法別の比較としてライバルとなる鉄骨の材料価格の比較も紹介されていましたが、だいたい鋼材1t必要な建物は木材だと1m3
要で、鋼材はここ数年6~7万円/tで推移しているのに対し集成材の価格は5万円/m3ぐらいとなっており構造材の単価的に木造は鉄骨造より有利ということです。

集成材工場のビデオ上映もあり普段見れない加工工程が新鮮でした。 私の仕事ではまだ欧州の集成材を使う事が多いのですが、最近ラミナに抜け節がある等品質低下が目立ってきました。今後国産集成材の攻勢に期待したいです。


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