最近木造倉庫の相談が増えてきました。背景に従来鉄骨で計画していたものが鋼材価格や人件費の高騰により予算が合わない事例が増えている現状があるようです。
そこで今回は昨年竣工し中部経済新聞(2025年2月21日付)に取り上げられました、i-木構が構造設計を担当した。愛知県飛島村の大規模木造倉庫(2棟)である材総DMBホールディングス飛島倉庫A棟、B棟 新築工事をご紹介します。

18.2mスパン木造倉庫の外観写真

鉄骨造と比べ4割減の衝撃

リンク先の記事で報じられた建設費は、スパン18.2m、延床面積990㎡(約300坪)の倉庫2棟で合計約2億4千万円(坪単価約40万円)、近年の同規模の鉄骨造と比較して4割ほど割安な水準に収まっています。これは安価に建設できた背景もありますが、手前味噌ながら日頃からi-木構が取り組んでいる住宅向け一般流通材を使い、特殊な金物を用いず木組みと住宅向け金物を主体とした構造計画も大きく貢献できたと自負しています。

18.2mスパンの木造倉庫の内部写真

構造設計者の技量と建設コストの関係

技量の高い構造設計者が設計した建物は建設コストが下がる」ということは建築業界では知られています。その中でも構造設計者の技量の差が顕著に出る建物が倉庫です。私自身、設計事務所時代に鉄骨倉庫のVE(バリューエンジニアリング)依頼を何度も手掛けましたが、性能を求められない箇所にも高価な建材をふんだんに使うなど無駄だらけの設計もあれば、力の流れが美しい改善の余地が全くないほど合理的にまとめられた設計もありました。倉庫建築は工法選びだけでなく、「誰がどう構造設計をまとめるか」でコストは大きく変わりるわけです。木造の倉庫も同じでどのように構造計画を立てるかが建設コストに直結します。

また、平屋の倉庫や店舗では木造の強みが活きるレンジがあります。一般に鉄骨造平屋の経済スパンは9m前後とされています。これ以上のスパンを飛ばそうとすると、鋼材重量が増加しコストが跳ね上がります。一方で、木造では木造トラスを用いますが、住宅向けの一般流通材とプレカット加工を活用した所謂「JISトラス」の手法を応用することで、現在ではスパン20m程度まで経済的に飛ばすことが可能です。このためスパン15〜20mのレンジは、木造の構造的強みと経済性が最も発揮される領域と言えます。

どう実現したのか

それではこの倉庫の計画について紹介します。

1. 木造倉庫の使い勝手も重視 袖壁を無くした「方杖付トラス」

耐力壁と方杖付トラスを組み合わせた耐震計画

コストの前に使い勝手も重視したお話しをします。上図は構造計画の概念図(アイソメ図)です。建物は細長い形状のため桁行(左下↔右上)方向は建物の奥行きがあるので外壁だけで耐力壁量も水平構面の剛性も確保出来ます。しかし、張閒(右下↔左上)方向では外壁の耐力壁では不足する上、耐力壁線間隔も広くなり水平構面の剛性も不足します。このため、中通りに袖壁を設けて耐力壁量の確保しつつ壁線間隔を短くすることで必要な水平剛性を緩和する構造計画がセオリーとなります。しかし、倉庫では袖壁が収納物の配置、ラックのレイアウト、フォークリフトの動線などに制限につながることがあり、木造倉庫が敬遠される要因にもなります。

今回はお施主様の要望もあり袖壁の無い空間を実現するために「方杖(ほうづえ)付トラス」を採用しています。

18.2mスパンの方杖付トラスフレームの全体3DCAD画像
方杖付トラスフレームの方杖付近の仕口拡大した3DCAD画像

上図は方杖付トラスフレームの3Dモデリングです。トラスの両側に斜めの材(方杖)を取り付ける、柱材2本と方杖材2本でトラスを挟み込むディテールとしています。こうすることで柱寸法を不必要に大きくせずに地震に対する耐力を高めています。このフレーム1つで5倍の耐力壁3.4m分に相当する剛性と耐力を発揮し、建物にかかる地震力の2/3を負担します。これにより内部に袖壁や柱を設けない18.2m×52.78mの無柱・大開口空間を実現しています。

2列の柱と方杖の写真

施工された現場の方杖の様子です。方杖が軒より下に下がってきますが、袖壁と比べれば格段に使い勝手は良くなっています。

2. 特注金物に頼らない構造設計「黒本」手法の応用

スパンの大きな木造トラスでは接合部に特注の製作金物を使ったりスリットを入れた鋼板挿入ドリフトピンを用いる例が多いです。しかし、この手法は金物のコスト、特殊加工費、現場での大量のドリフトピン施工と現場での修正によりコスト高になってしまいがちです。 i-木構では高価な製作金物を用いず、一般流通材に接合部は木組みを主体に引きボルト、構造用ビス、住宅向けのZ金物同等品を組み合わせて構成します。部材は住宅向け、加工も住宅用プレカットラインで大部分を加工、金物は住宅向けの普及品で構成することで、多くのプレカット工場で調達・加工しやすくし、コストを抑えています。

18.2mトラスの仕口形状のわかる写真

これは特殊な技術ではなく、構造解析ソフトでは対応しきれない接合部の安全性を、表計算ソフトを用いて一つ一つ許容応力以内であるか検証している結果です。稲山正弘氏の著書『中大規模木造建築物の構造設計の手引き(通称:黒本)』で紹介されている正攻法の構造設計手法を突き詰めることで、この合理的なコストを実現しています。

接合部の強度計算のエクセルシート

3. 屋根面の剛性確保と現場施工の効率化

大空間の木造倉庫では、地震や台風による屋根の変形を防ぐ必要があります。複雑なブレースを用いるのではなく、一般住宅と同様に「24mm厚の構造用合板」を屋根に直張りすることで、シンプルかつ強固な水平構面を形成し、建物の歪みを防いでいます。

地組と建方の写真群

また、本加工前の試験組みで精度と吊り上げ方法を検証し、現場では特殊な重機を手配せず、大工が1フレームずつ平置きで組み立て(地組)を行い、クレーンで設置する手順をとります。これにより高所作業が減少し、安全で効率的な建方が可能となるため、現場の手間を削減できます。ただ、地組したトラスを一気に吊り上げるのはこのくらいのサイズが限界で、これ以上は2分割で地組して小屋上で合体させることになりそうです。

上部構造が軽量化される木造は、見えにくい基礎工事や地盤改良にかかる費用も抑えやすく、トータルコストの低減に直結します(※方杖付トラスの柱脚は、鉄骨造と同様に基礎柱を設けて安全に力を逃がしています)。 現在、予算の都合で計画が止まっている倉庫や工場の鉄骨図面がありましたら、現実的な予算内に収まる木造転換(VE)の構造計画として、ぜひ一度ご相談ください

 


保育園・老人ホーム・店舗等の中大規模木造建築の構造設計・構造計算、事前相談を承ります。
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